すでに、SNSでかなり拡散されていて、ネットニュースにもなっているエピソードですので、ご存知の方が多いのではと思いますが……。
久しぶりに、「フリー戦略マーケティング」の素晴らしい実証例を見ました。
小学生の「2,000円は高い。自分で買えない」から始まった。
ご存知、お笑いコンビキングコングの西野亮廣さん。
今や、23万部突破の絵本「えんとつ町のプペル」の作者といった方がいいのでしょうか?
彼がお笑い芸人の枠を飛び越えて、様々なことにチャレンジをしているのは、ご存知の方も多いと思います。
西野さんが、またおもしろいチャレンジをやってのけてくれました。
なんと「えんとつ町のプペル」を無料公開したのです。
詳しい経緯は、西野亮廣さんのブログ記事「お金の奴隷解放宣言」をご覧いただきたいのですが……。
たったひとりの小学生の願いが、西野さんを動かしました。
西野さんは、本をたくさん売ることよりも、本を見て楽しんでくれる人が増えてほしい、という思いをもっていて、
『10万部売れるコト』よりも、『1億人が知っているコト』の方が遥かに価値がある
西野亮廣さんのブログ記事「お金の奴隷解放宣言」より
と考えていたからこそ、彼は「無料でネットで見てもらう」を選ぶというカタチで解決を図ったわけですね。
「あ〜、これで買おうかどうしようか迷っていた人は、タダで見るんだろうな。」
そう思われた方も多いのではなかったでしょうか。
ところが、予想を超える展開が待っていました。
なんと、Amazonで、「えんとつ町のプペル」の売上が急上昇したのです。
無料配信を始めた途端に、Amazonの売上がトップに!?
「えんとつ町のプペル」を無料公開した結果、どうなったかについては西野さんのブログ記事「『えんとつ町のプペル』の完全無料にした結果…」で報告されています。(「お金の奴隷解放宣言」による告知から、わずか5時間後のことです。)
西野亮廣ブログ記事「『えんとつ町のプペル』の完全無料にした結果…」より
驚き。
何が起こっていたのでしょうか? 想像してみます。
ステップ1
西野さんのブログ読者が、「えんとつ町のプペル」無料配信が始まったことを知った。
ステップ2
ブログ読者が行動した
その1 大半の人は、さっそく見に行った
その2 何割か(何%か)は、SNSでシェアした
ステップ3
SNSのシェアを見た人が行動した
その1 大半の人は、さっそく見に行った
その2 何割か(何%か)は、さらにシェアした
ステップ4
この連鎖がどんどん広がり、シェアに次ぐシェアにより、情報が同心円状に拡散され、加速度的に、えんとつ町のプペルのサイトを見に行く人が増えた。
ステップ5
えんとつ町のプペルをサイトに見に行った人が行動した
その1 大半の人は、「ああ、良かった」と満足した
その2 何割か(何%か)の人は「手元に本が欲しい」「ちゃんと見たい」と思い、そのままAmazonにアクセスして購入した→→→→→ここで本が売れて収益化
このような流れがあったのだと推測されます。
ちなみに、「えんとつ町のプペル」はこちらのリンク先から読めます。
大ヒット中の絵本『えんとつ町のプペル』を全ページ無料公開します(キンコン西野)
そもそも、フリー戦略とは。
フリー戦略とは、顧客を獲得するための戦略のひとつで、先に消費者にとって有益なものを無料で提供し、無料で受け取った人の中から、有料で買いたいという層を顧客化するというものです。
おためし無料
サンプル差し上げます
立ち読みサービス
等等、たくさんの無料サービスがありますよね。
これらは、すべて「フリー戦略」の一環と言えます。
以前、フリー戦略については、わたしはこんな記事でご紹介しました。
無料で読める「花より男子」新作、どうやって収益化するの?
フリー戦略プロモーション収益化のカギは「条件付き」
花男無料キャンペーンのカラクリをあばけ〜!
フリー戦略、あなたの身近にも、こんな例で使われています。
例えば、駅で無料サンプルを配布するのは、受け取った人の中から何人かが、「使ってみたら良かったから」と、引き続き製品を買うということが見込まれるから行われているのです。
AmazonやKindleの立ち読みサービスは、最初の数十ページを無料で見せることで、引き続き読みたい人が購入するという流れになっています。
ところが「えんとつ町のプペル」は、全ページ無料公開。
サイトに行きさえすれば、全部読めるのです。
「続きが読みたいから」という理由で、お金を出す人はいないのです。
サイトに見に行った人が、わざわざ紙の本を買った理由はなんだったのでしょうか?
おそらく……。
「手元に置きたいから」「本で読みたいから」「親子(家族)で一緒に読みたいから」というものではなかったでしょうか。
絵本という商品の特性上、装丁や色の発色まで含めて、商品であると言えます。
文字だけで書かれた小説やビジネス書なら電子書籍で構わないという人がいると思いますが、絵本というのは「ページをめくる喜び」「所有したいという欲」を満たしてくれる商品なので、そもそも一般書とは異なる性質を持っているのです。
だから、パソコンで全ページ見た人の中から、「現物が欲しい!」と思った人が続出したのでしょう。
西野亮廣さんが、ここまで想定して無料配信に踏み切ったのか、それはわかりません。
ただ、売上報告的に、Twitterのスクリーンショットのみを貼り付けた彼の投稿を見る限り、予想を超えた出来事だったのではないかと思います。
「求めよ、さらば与えられん」ではなく。
与えるが先
ギブアンドテイク、ギブアンドギブ
損して得取れ
先に与えることによって、回り回って豊かになる。
ビジネスの世界で、よく聞くお話です。
「お世話になった人のために採算度外視で仕事を手伝ったら、後で別のところから仕事が舞い込んできた」こんな話も、結構ありますよね。
聖書では「求めよ、さらば与えられん」と語られていますが、
ビジネスの現場では「与えよ、さらば与えられん」なのです。
ところが、理屈で理解できても、「本当に与えたものが帰ってくるのか」「やり損になるんじゃないのか」という不安感が先に立ってしまい、躊躇して一歩を踏み出せない人が大半だと思います。
西野さんは、無料配信を始めました。
一見、美談です。彼は子どもの願いを叶えるために、本を売ることをあきらめたように見えます。
確かに、サイトを見に行って買わずに見ただけの人は多かったでしょう。
でも、本は売れました。彼は、無料で与えたことにより、豊かになりました。
画面を通して「えんとつ町のプペル」に触れる機会が与えられたことで、「欲しい」という感情が刺激された人が現れたのです。
情報に触れて、思ってもみなかったカタチで感情が刺激されて、欲しくなるということはあるのです。
今回の西野さんの一連の行動、「フリー戦略」の可能性を大きく広げてくれました。これから先、マーケティングの教科書に載りそうな事例です。
大いに学ばせていただきました。ありがとうございます。