お客さまの抱いているイメージと、提供している商品・サービスのみならず、提供者の作り上げたい世界観やビジョンが一致していると、それはブランドとして認知されます。
お客さまが知りたいのは、その商品やサービスが自分にとって価値あるものなのか、役に立つのか、ということです。ある意味、作り手のこだわりはさほど重要視されないこともよくあります。
売り手は「お客さまのために商品を選んで紹介する」という立場です。その立場に信念と誇りを持つことで、ブランドとして認知されていきます。
本屋大賞、毎年注目の的です。
写真出典:毎日新聞
2017年の本屋大賞が恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」に決まりましたね。
「蜜蜂と遠雷」は、直木賞も受賞しています。この「ダブル受賞」は初! すごいことですね!
ミステリーともファンタジーとも、なんとも言い難い恩田さんの世界観、わたしも大好きです。恩田さんの本屋大賞受賞は「納得!」の結果ではないかとは思います。
それはそうと、芥川賞、直木賞の他にも歴史があって権威がある文学賞はたくさんありますが、今、世間的に非常に評価が高いのは、この「本屋大賞」ですよね。
なんで、こんなに「本屋大賞」は注目されているのでしょうか?
なぜ、本屋大賞は評価されているのか?
本屋大賞が始まったのは、2004年のことです。
キャッチコピーは「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」。この名の通り、全国の書店員が選考委員となって選考を行っていて、一般天気な文学賞では当たり前の作家や編集者は選考に関わっていないという特徴があります。
本屋大賞発足当時、出版不況と言われる時代はすでに始まっていて、出版点数は多いものの部数が伸びず、閉店する書店は増加する一方でした。
本は、日本全国どこで買っても均一価格で特別な場合を除いて値引き販売されることもありません。どこで買っても変わらないのであれば、消費者は本をネットで買う(重いから)、コンビニで買う(手軽だから)という行動をとるようになるのは自然だったのではないでしょうか。
志ある書店員さんの目には「これから先、何もしなければ書店で本を買う人は減る一方」というのが見えていたのですね。
全国の書店員さんによって「自分たちの手で、売りたい本を世に送り出そう!」と、本屋大賞実行委員会が立ち上げられたのが2003年。それからわずか1年で本屋大賞はスタートしたのです。
本屋大賞第1回の受賞作は小川洋子さんの「博士の愛した数式」、第2回は恩田陸さんの「夜のピクニック」(恩田さんは本屋大賞も2回目の受賞なんですね!)、2作とも映画化され、本もベストセラーになりました。
一般的には文学賞を受賞したからと言って本が売れるとは限らないようですが、本屋大賞を獲った本は「売れる!」という評価が定まったのです。(その後の受賞作も、ベストセラー連発&次々と映画化・ドラマ化されていますね。)
受賞作を書店員さんが選ぶ意味、選ぶ価値
書店員さんは、本を売る立場ではありますが、本を作る立場ではありません。
作り手ではないからこそ「作り手の意図」やら「作品に込めた想い」やらにとらわれずに、純粋な読み手として本を読み、素直に「おもしろいもの、良いものをお客さまに届ける=売る」という行動をとっています。
「おもしろかった!」「ワクワクした!」という読後感を多くの人と共有したい、本当に良い本だからすすめたい!という多くの書店員さんの想いが結集したのが本屋大賞です。「自分たちが選んだ賞だ!」という意識があるので、書店員さんたちはそれぞれの店舗で、受賞作を紹介するのに力を入れます。
読者は「自分たちの代わりに書店員さんが絶対おもしろい、オススメの本を選んでくれたんだ」という気持ちで、本屋大賞受賞作及びノミネート作品を手に取ります。(結果、本が売れていきます。)
本屋大賞に関しては、他の文学賞とは異なり、書店員側の「おもしろい本を紹介したい!」と読者側の「おもしろい本を買いたい!」という利害関係が見事に一致してWin-Winの関係になっているのです。
なぜ、本屋大賞がブランドとして認知されるに至ったのかというと、「読者の気持ちに最も寄り添っている書店員さんが、読者に成り代わって選んでいる賞だから」ということが言えそうです。
お客さまの気持ちに寄り添っているから……。
お客さまの抱いているイメージと、提供している商品・サービスのみならず、提供者の作り上げたい世界観やビジョンが一致していると、それはブランドとして認知されます。
本屋大賞が「おもしろい本が読みたい!」という読者に気持ちに寄り添い、代弁者として発信し続ける限り、ブランドとしての地位は揺るがないでしょう。
そろそろ、第二、第三の「本屋大賞」が生まれてもおかしくはありませんね。