ビジネスを成功させるのに、一番必要なのはお客さまをつくることです。つまり、お客さまの心理や行動を知らなければなりません。
お客さまって、どういう人なんでしょうか?
自分の目の前に存在しないもの、存在に気づいていないものを欲しいと思うお客さまはいません。しかし、その存在に気づかせるように働きかける、つまり情報を伝えるのは、売り手の使命です。
わたしは、25年の会社員生活で、ずっと「お客さまは、なぜ買いたくなるのか?」ということを考え続けてきました。いわゆる顧客心理の研究をしてきたワケです。
重点販売商品、売り込み商品といわれる、会社から決められた「売るべき商品」をどう売るかということももちろん考えてやってきましたが、こちらが考えている通りにお客さまは動いてくれるワケではありません。
お客さまは気まぐれで、自分勝手で、自己中です。でも、それがお客さまなんです。
ファッション業界特有の、ある事情。
日本のファッション業界では、季節を大きく8つに分けているということはご存知でしょうか? 12ヶ月を8つに分ける、つまり、わずか1ヶ月半のサイクルで新商品を次々出していく必要があるので、1つの商品のライフサイクルはとても短いのです。
季節に合わせて店頭イメージを変えるには、次々に新しい商品を出していかなければならないため、そのためには、前シーズンの商品在庫はできるだけ早く店頭からなくさなければならないのです。
いわゆるアウトレットモールが急激に増えている理由もココにあります。ブランドイメージを守る必要がある店では、店頭に「セール」「値下げ」のイメージが付くことを避けなければなりません。定価での販売期間が終わった商品は、アウトレット店舗に移動させてセール価格で販売することで、ブランドイメージを保っているわけです。
同じブランドの同じ商品でも「いつ」「どこで」買うかによって価格が異なる理由はココにあるのです。
お客さまがお金を払う理由
さて、25年間続けてきた洋服の販売の仕事を通して、わたしはいろいろなことを知りました。
●どんなにいいものであっても、売れないものはある。
●バーゲン等で値下げをしても、全ての商品が売れるとは限らない。
●どんなに売れる商品であってもお客さまの需要とのバランスが崩れてしまえば、あっという間に売れなくなる。
いわゆる「売れ筋」商品というのは、お客さまの需要が多い商品です。
お客さまの需要を満たす商品を取り扱っていれば、その商品は売れます。お客さまの需要がない商品は、いくらあっても売れません。
品質の良し悪し、例えば、いい素材を使っているからとか、縫製がきれいだからとかという「作り手のこだわり」は、お客さまが、まずその商品に興味を持つかどうかということについては、全く関係がありません。
最終的にお客さまが類似商品と比較検討して買うものを決めるという段階では、品質の良し悪しが多少なりとも影響を与えることはありますが、それだけです。
買いたくなるには、理由がある。
ファッションの仕事を通じてわたしが知った、商品が売れる理由、それは……。
お客さまは、欲しければ買う。欲しくなければ買わない。
シンプルな、このたった一つの真理です。
良し悪しや損得ではなく、欲しいか欲しくないか。それは、好き嫌いという感情に基づいているもので、恐ろしく主観的なものです。
人は、他の誰がどう言おうと、自分が好きだと思えるものが欲しいのです。そんなものに出会えて、気持ちが刺激されれば、欲しいと思う気持ちが湧いてくるのです。
自分の目の前に存在しないもの、存在に気づいていないものを欲しいと思う人はいません。しかし、その存在に気づかせるように働きかける、つまり情報を伝えるのは、売り手の使命です。
お客さまの「欲しい」という気持ちを喚起させる情報提供、していきたいですね。